犬と犬と猫と読書と。

犬と犬と猫との生活と、読書の感想など。

「箱の中」木原音瀬(講談社文庫)を読んだ。

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一般書として売られてはいるものの、元はBLレーベルで売られていた作品ということで読んでみた。一般作品の中に紛れているBL風味な作品が好きなので。「同行二人 特殊潜航艇異聞/井上武彦」や、「聖なる黒夜/柴田よしき」なども大変楽しかった。とくに後者は、読みすすめるうちに、次々と男性主要キャラクター達が同性愛者であることが明かされていき、複雑な竿兄弟関係が発覚したときには「まじかい」と目をむいた。どちらも面白かったです。

そんなわけで、イケメン同士がいちゃついているだけでなく(それはそれでよいものの)、しっかりとしたストーリーの上にメンズのラブが盛り込まれていれば最高! なので、この「箱の中」もそういった内容を期待していた。

ところが。

これ、よくBLレーベルで出せたな……というのが第一印象。あとがきで三浦しをんも書いていたが、BLというジャンルの懐の深さに驚かされた。だって、ラブシーンなんてほとんどないし。暗いし。イケメンは一人いるけど、ほか全員普通の中年だし。

主人公は、とくにハンサムというわけでもない優しさと実直さが取り柄の役所づとめの男、30歳。この主人公が痴漢の冤罪で刑務所に入れられる。一方的に犯罪者にされ、刑務所でおくる生活は地獄のよう。さらに、そんな彼にどんどん不幸な出来事がふりかかってくる。このあたりの描写は本当にかわいそうで、主人公に心を寄せざるをえない。そんな主人公の前にさっそうと現れて、鼻水を拭ってくれるのが、本作のもう一人の主人公であるハンサムガイ(前科一犯)。

理由はよくわからないが、このハンサムガイが主人公に惚れ込み、どこまでもどこまでも追いかけていく、そして主人公はそんなハンサムに翻弄されるというお話だった。でもって重要なのが、この作品においては、ほぼこの2人のみがピュアであり、まわりの大人達はことごとくウンコ人間であること。そりゃまぁ、そんだけ周りがウンコなら、ピュアな2人でくっつくよりしょうがないよねと納得。

この2人、作中ではウンコたちのウンコな所業に振り回されながらも、そのピュアさゆえにウンコに気が付かず簡単に騙されたり、傷つけられてなおその相手であるウンコを思いやったり……と、とにかく終始ピュアピュア。そんな2人によるピュア・ラブなのでした。

愛ってなんだろうね。と、改めて考えました。

ところで。作中に出てきた「林檎の牛乳サラダ」ってなんだろう。「林檎の牛乳サラダ」。牛乳サラダ? 検索したけど出てこなかった。どんな食べ物なのか、気になる「林檎の牛乳サラダ」。



以下、ネタバレ(ざっくりプロット)。



<箱の中>
1.主人公、刑務所へ
2.回想で冤罪の詳細。刑務所のつらい生活が続く
3.面会家族からもたらされる、最悪の状況。家族までさんざんな目に
4.三橋との交流、喜多川の警告
5.三橋の詐欺事件
6.喜多川の親切
7.心通わせる二人。一方的な肉体関係へ
8.喜多川、暴力事件。主人公出所
9.主人公のその後

<脆弱な詐欺師>主人公交代
1.金に困っている主人公(探偵)の境遇
2.喜多川の依頼
3.喜多川から金を搾取する主人公
4.喜多川が殺人犯と知り、手を切る主人公
5.芝から脅迫され、あらためて堂野をさがす主人公
6.堂野発見と、主人公の変化

<檻の外>
1.喜多川と主人公の再開
2.主人公の家に通うようになる喜多川
3.妻の異変(伏線としてはさんでいる)
4.喜多川の変化。娘を嫁にくれ(この辺はもうホラー)
5.娘の失踪
6.喜多川への疑い
7.真相発覚
8.結ばれる2人
9.妻の凶行
10.2人の生活へ(ハッピーエンド)